むかし、あるところにあほな総領息子がいました。
正月が近づいたので、
「町に行って、せぎよい(※)してこい。」
と言われて、五円あずけられました。
むかしの五円は大金でした。
首に風ろ敷をしばって、五円を持って町に行きました。
(しかし、)何を買っていいのかわからない。
「せぎよいしてこい。」
と言われても、そんなこと知らなかった。
町では正月がくるから、あっちでもこっちでも道の両側に店が並んでいました。
何を買ったらいいかと、あっちへ行き、こっち行きしていたら、
「これ、これ、ちょっときてみろ。
おめえさん、何を買いにきたのか。」
と、声をかけられました。
(うろうろしていた)様子でわかったようだ。
「せぎよいしてこいと、金をもらってきた。」
「いくらもらってきた。」
「これだけだ。」
と、出してみせたら、
「五円か、せぎよいにはこれが一番だ。」
と、その人は、お獅子神楽を売っていました、
小さいのから大きいのから、いくつも並べてありました。
「このお獅子神楽を持って行けば、悪魔払って年取られるので、一番いい。」
「それじゃ、これを買っていく。」
と、神楽面を買って家にせおって帰ってきました。
「せぎよいしてきた。」
と、(風ろ敷を)ゴロゴロと転がしてやりました。
おとっつぁがあけてみたら、神楽面一つきりでした。
「なんだ、これだけか。」
「これが一番いいと言うから、買ってきた。」
「このバカ。正月がくるというのに神楽面一つ買ってきて、どうするのか。
おまえというやつは、よくよくあほうな野郎だ。
これ一つくれてやるから、せおって出て行け。
家にはおけない。行きたいところに行け。」
と、神楽面一つ風ろ敷にせおわされて、追い出されてしまいました。
仕方がないからしおしおと出て行きました。
だんだん日が暮れて、心細くなってきて、
さて、どこに寝ようかと、そっち、こっちさがしていたら、
人が住んでいないような小屋を見つけました。
今日はここに寝ようと思っていたところ、遠くから人声がしました。
ゴヤゴヤ、ガヤガヤと近づいてきたので、そーと戸を開けてみたら、
十人も十五人もぞろぞろとやってくるところでした。
これはいけない。
みつかったらいじめられると思って、天井のはりに上がって、
野郎共なにしにきたのかと見ていました。
そしたら、金をひろげてやったり取ったりしてばくちを打ち始めました。
ばくちなんて見たことなかったので、いやぁ、これはおもしろい。
おらもひとついれてもらおうと、盛りになった頃、神楽面かぶって、
「おらとこいれろー。」
と、はりの上からドサッとまん中に落ちたらば、
いやあ、集まった連中がびっくりしてしまい、
「ほら、化け物だー。」
と、お金をおきざりにして逃げていってしまいました。
いや、これはいい。
泊まるところないから、このくらい集めて持って行けば、
(おとっつぁ)許してくれるだろうと思って、金をもって家に帰ってきました。
「おら、金もうけしてきた。」
と、大きいこと言っておとっつぁに見せました。
「どこでそういう金もうけしてきた。」
「これこれ、こういうわけです。」
「いやあ、たいしたものだ。これだけあれば働かなくてすむ。」
と(総領を家から)追い出していたのを(やめて)、また(家に)もどしました。
※せぎよい=正月用の品物を買うこと。
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