みどりの中に光る絹の町川俣

びた銭で命拾い

印刷用ページを表示する掲載日:2012年7月1日更新

むかし、あっとこに、なさけぶけえ人があったど。
ある日、用足しさ行ぐ途中にな、道ばたにほえどがおったど。
「何か恵んでくなんしょ。」
って願わっち、
「おらてえーした持ち合わせねえが、びた銭ちっとあっから、
こいづで何かこうてけぇ。」
って、せえふから出してくっちゃったど。
ほえどはありがたがって、
「何もくっちゃるもんねえが、これ持ってってくんちぇ。」
って、一包みのもぐさをくっちよごしたど。
「やっさらくっちよこしたんだがら、ほんじゃ貰らっていくべ。」
って、ほえどと別っちどこまで行ったったか、
途中で日が暮れっちまったもんだから近道をきたんだと。
ところが古井戸でもあったんか、ドスーンと穴さ落ちじまったど。
ふけえどこさへえーっちゃって、登っこともなんもできね。
なんぼ叫んでも誰もきてくんにし、
ほんで、一晩穴ですごして明るぐなって気づいたのがもぐさだったど。
これはぜえもんあったど思って火打ち石出して火種にして、
わきのがさもくさ点けてけむ(煙)出したところ、
のろしのように上ってったわけだ。
ほれを見つけた村人が、
「なんだべ。あんなどこからけむが出てつぉ。
山火事でもなったらてえーへんだ。さあ、すぐやべ。」
って、皆でかけつけてみだら、ふけえ穴の中で、
「助けてけろ。助けてけろ。」
って、叫んでる人みつけて綱持ってきてやっと引き上げたど。
「おめえなんでへえーった。」
「近道したどこ、がけはずしてへえーっちまっただ。」

こうしてほえどに恵んだびた銭で命を拾ったど。

川俣 佐藤 庄吉


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