むかし、あっとこに、なさけぶけえ人があったど。
ある日、用足しさ行ぐ途中にな、道ばたにほえどがおったど。
「何か恵んでくなんしょ。」
って願わっち、
「おらてえーした持ち合わせねえが、びた銭ちっとあっから、
こいづで何かこうてけぇ。」
って、せえふから出してくっちゃったど。
ほえどはありがたがって、
「何もくっちゃるもんねえが、これ持ってってくんちぇ。」
って、一包みのもぐさをくっちよごしたど。
「やっさらくっちよこしたんだがら、ほんじゃ貰らっていくべ。」
って、ほえどと別っちどこまで行ったったか、
途中で日が暮れっちまったもんだから近道をきたんだと。
ところが古井戸でもあったんか、ドスーンと穴さ落ちじまったど。
ふけえどこさへえーっちゃって、登っこともなんもできね。
なんぼ叫んでも誰もきてくんにし、
ほんで、一晩穴ですごして明るぐなって気づいたのがもぐさだったど。
これはぜえもんあったど思って火打ち石出して火種にして、
わきのがさもくさ点けてけむ(煙)出したところ、
のろしのように上ってったわけだ。
ほれを見つけた村人が、
「なんだべ。あんなどこからけむが出てつぉ。
山火事でもなったらてえーへんだ。さあ、すぐやべ。」
って、皆でかけつけてみだら、ふけえ穴の中で、
「助けてけろ。助けてけろ。」
って、叫んでる人みつけて綱持ってきてやっと引き上げたど。
「おめえなんでへえーった。」
「近道したどこ、がけはずしてへえーっちまっただ。」
こうしてほえどに恵んだびた銭で命を拾ったど。
川俣 佐藤 庄吉
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