みどりの中に光る絹の町川俣
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ひどい嫁っ子(ばあさまと意地悪な嫁の話)

印刷用ページを表示する掲載日:2012年7月1日更新

昔、あっとこにめくらのばあさまと、息子が住んでだど。
ばあさまはとっても観音さまの信心深え人でな。
息子に早く嫁とって安心して死にてえと思ってだと。
そのうち息子は町さ行って、変な女を嫁につっち来ちまったんだとさ。
このおなごはしょうわるおなごでな、何かにつけてばあさまこと邪まにしてな、
つらーく当ってばかしいたんだと。
かわいそうなことにな、息子がごいら病気で死んじまっちゃど、
嫁っこはばあさまのしんしょが欲しくなって、今までよっか邪まにしたど。
そして三度のまんまも満足にくんにで、
邪まもんは早くくたばっちゃ方がぜえなどと、
近所の人さ言って歩くようになったんだと。
そんなこっから年取ってたばあさまは病気になっちまってな、
嫁っこはいっそうばあさまこと邪まにして、
薬も食べもんもくんなくなっちまったど。
ある日ばあさまが、
「おらもそう長く生きらんにから、この世の思い出に一度でぜえから、
うどんが食いてえ。」
と言ったど。
すっと嫁っこは、ばあさまが近いうちに死ぬんだべと思って、
うどん作って食わせたど。
嫁っこが留守の間に、近所の人が見舞に来たんで、ばあさまは、
「今日は珍らしく嫁っこがうどん作ってくっちゃが、うまぐなく変な味がしたでな。」
と言ったんで、鍋の中を見っと、ミミズを煮たもんだったど。
びっくらして、
「ミミズだべ。」
と言うと、ばあさまはびっくらして目を回しちまったど。
あわくっち近所の人が、水ぶっかけたり、背中さすたりしてくっちゃんで、
やっと息吹きけえしたど。
その人がけえっとき、気持ちのやさしいばあさまは、
「嫁っ子さ言わねでくんち。」
と言ったど。
次の日からばあさまはごいら悪くなってない、
晩げになってから枕もとさ嫁っこ呼んで、
「おらもなげえことねえーようだ。
いろいろ世話になったおめえに言っとくがな。
おらが死んだら誰もいねえ時に、おらの布団の下見てけろ。」
と言ったんで、嫁っこはてっきり金でもかくしとったのかと思ったんだべ。
まんまもくわせねえで、ばあさまの死ぬのを待ってたど。

そしてとうとうばあさまが死んじまっと、嫁っこは近所さも知らせねえで、
死がいをおっころばして布団の下を見たと。
すっとまん中さまるい包物があったんでない、
嫁っこはてっきり金包みだと思って、急いでとくと、ピカッと光って、
とたんにのどが何かさしめつけられっちゃようになって、
苦しくて息が止まりそうになっちまったど。
苦しくてそこら中転げまわって騒いでっと、
近所の人がやって来て、嫁っこ見てびっくらしたど。
首さ白い蛇が巻きついで、ぶきみな目を光らしてたんだと。
蛇を取ろうとすっと、首を強くしめつけちまって、息が止まる苦しみなんで、
何とも仕方がなくなっちゃったどさ。
それから嫁っこは水を飲んべと思っても、まんま食うべと思っても、
ちっとしかできなくなっちゃって、ただ生きてるだけになっちまったど。
医者さまにみてもらっても、たゆうさまや坊さまに祈祷してもらっても、
蛇は取んにゃかったど。
近所の人も気味わりがって寄っつかなくなっちゃったど。
嫁っこはお釈迦さま、如来さま、観音さまとおめえりしても、
ちっともききめがなぐ、日一日とやせっこけてしまったど。

ある日、旅の坊さまが通りかかって、その話を聞いでな、
「そりゃ、ここから遠く離っちる海ん中さ小島があっかんな、
そこさ祭らっちる観音さまさ、二十一日の願かけてばあさまの供養すっと、
蛇が離れっかもしんねえ。」
と言ったど。
嫁っこはさっそく旅の用意して、
近所の親切な人に付き添ってもらって旅さ出かけたど。
人に見られんのがいやで首さ布巻いてったど。
やっとのこっと島さ出る舟の港さ着いだが、
舟の出る日まで宿で蛇に苦しめらっちゃったどな。
やっとこさ舟が出る日がやって来て舟さ乗ったが、
観音さまめえりの人たちでいっペいだったど。
岸を離っち島さ向ったが、
途中でおかしなことに舟がぴたっと止まっちまったど。
舟頭がいくらこいでも進まねえんで、
みんな騒ぎ出し舟頭もあせって調べてみても分んねがったど。
すっと、一人の船頭が、
「この舟さ汚れた人が乗ってんで舟玉明神(※)さまが怒って、
舟止めたに違えねえ。」
と言い出したど。
そんでお客一人一人調べ始めたんだど。
嫁っこは隅っこさちっこくなってで、
しめえに調べらっち首に巻きついた蛇を見つけられちゃったど。
「こいつだ。」
と言わち、舟は港さ戻ってっで嫁っこは舟から降ろさっちゃったどさ。
今度は舟はなんにもなかったように、島さ向って進んで行ったど。
降さっちゃ嫁っこはどこさ行ったか分んねどさ。

※舟玉明神=舟の守護神。
古代から船乗りのあいだで信仰され、はじめは住吉の神、
のち、神仏混交の形をとり大日、釈迦如来、聖観音も現われた。

川俣 佐藤 庄吉


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