昔、あっとこにめくらのばあさまと、息子が住んでだど。
ばあさまはとっても観音さまの信心深え人でな。
息子に早く嫁とって安心して死にてえと思ってだと。
そのうち息子は町さ行って、変な女を嫁につっち来ちまったんだとさ。
このおなごはしょうわるおなごでな、何かにつけてばあさまこと邪まにしてな、
つらーく当ってばかしいたんだと。
かわいそうなことにな、息子がごいら病気で死んじまっちゃど、
嫁っこはばあさまのしんしょが欲しくなって、今までよっか邪まにしたど。
そして三度のまんまも満足にくんにで、
邪まもんは早くくたばっちゃ方がぜえなどと、
近所の人さ言って歩くようになったんだと。
そんなこっから年取ってたばあさまは病気になっちまってな、
嫁っこはいっそうばあさまこと邪まにして、
薬も食べもんもくんなくなっちまったど。
ある日ばあさまが、
「おらもそう長く生きらんにから、この世の思い出に一度でぜえから、
うどんが食いてえ。」
と言ったど。
すっと嫁っこは、ばあさまが近いうちに死ぬんだべと思って、
うどん作って食わせたど。
嫁っこが留守の間に、近所の人が見舞に来たんで、ばあさまは、
「今日は珍らしく嫁っこがうどん作ってくっちゃが、うまぐなく変な味がしたでな。」
と言ったんで、鍋の中を見っと、ミミズを煮たもんだったど。
びっくらして、
「ミミズだべ。」
と言うと、ばあさまはびっくらして目を回しちまったど。
あわくっち近所の人が、水ぶっかけたり、背中さすたりしてくっちゃんで、
やっと息吹きけえしたど。
その人がけえっとき、気持ちのやさしいばあさまは、
「嫁っ子さ言わねでくんち。」
と言ったど。
次の日からばあさまはごいら悪くなってない、
晩げになってから枕もとさ嫁っこ呼んで、
「おらもなげえことねえーようだ。
いろいろ世話になったおめえに言っとくがな。
おらが死んだら誰もいねえ時に、おらの布団の下見てけろ。」
と言ったんで、嫁っこはてっきり金でもかくしとったのかと思ったんだべ。
まんまもくわせねえで、ばあさまの死ぬのを待ってたど。
そしてとうとうばあさまが死んじまっと、嫁っこは近所さも知らせねえで、
死がいをおっころばして布団の下を見たと。
すっとまん中さまるい包物があったんでない、
嫁っこはてっきり金包みだと思って、急いでとくと、ピカッと光って、
とたんにのどが何かさしめつけられっちゃようになって、
苦しくて息が止まりそうになっちまったど。
苦しくてそこら中転げまわって騒いでっと、
近所の人がやって来て、嫁っこ見てびっくらしたど。
首さ白い蛇が巻きついで、ぶきみな目を光らしてたんだと。
蛇を取ろうとすっと、首を強くしめつけちまって、息が止まる苦しみなんで、
何とも仕方がなくなっちゃったどさ。
それから嫁っこは水を飲んべと思っても、まんま食うべと思っても、
ちっとしかできなくなっちゃって、ただ生きてるだけになっちまったど。
医者さまにみてもらっても、たゆうさまや坊さまに祈祷してもらっても、
蛇は取んにゃかったど。
近所の人も気味わりがって寄っつかなくなっちゃったど。
嫁っこはお釈迦さま、如来さま、観音さまとおめえりしても、
ちっともききめがなぐ、日一日とやせっこけてしまったど。
ある日、旅の坊さまが通りかかって、その話を聞いでな、
「そりゃ、ここから遠く離っちる海ん中さ小島があっかんな、
そこさ祭らっちる観音さまさ、二十一日の願かけてばあさまの供養すっと、
蛇が離れっかもしんねえ。」
と言ったど。
嫁っこはさっそく旅の用意して、
近所の親切な人に付き添ってもらって旅さ出かけたど。
人に見られんのがいやで首さ布巻いてったど。
やっとのこっと島さ出る舟の港さ着いだが、
舟の出る日まで宿で蛇に苦しめらっちゃったどな。
やっとこさ舟が出る日がやって来て舟さ乗ったが、
観音さまめえりの人たちでいっペいだったど。
岸を離っち島さ向ったが、
途中でおかしなことに舟がぴたっと止まっちまったど。
舟頭がいくらこいでも進まねえんで、
みんな騒ぎ出し舟頭もあせって調べてみても分んねがったど。
すっと、一人の船頭が、
「この舟さ汚れた人が乗ってんで舟玉明神(※)さまが怒って、
舟止めたに違えねえ。」
と言い出したど。
そんでお客一人一人調べ始めたんだど。
嫁っこは隅っこさちっこくなってで、
しめえに調べらっち首に巻きついた蛇を見つけられちゃったど。
「こいつだ。」
と言わち、舟は港さ戻ってっで嫁っこは舟から降ろさっちゃったどさ。
今度は舟はなんにもなかったように、島さ向って進んで行ったど。
降さっちゃ嫁っこはどこさ行ったか分んねどさ。
※舟玉明神=舟の守護神。
古代から船乗りのあいだで信仰され、はじめは住吉の神、
のち、神仏混交の形をとり大日、釈迦如来、聖観音も現われた。
川俣 佐藤 庄吉
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