むかし、あるところに、じいさまとばあさまがおりました。
じいさまは山に行って枯れ枝を取ってきて、
町に背負って行って売って暮らしていました。
ある日、枯れ枝を売って帰ってくるとき、
道端で子供たちがキツネの子を捕まえて、
いじめているところに通りかかりました。
「なんと。かわいそうなこと、そんなことをするとキツネにたたられるぞ。」
と言ったところが、
「なあに、そんなことあるか。」
と聞かないので、キツネがかわいそうになって、
枯れ枝を売ったなけなしの銭で、
「こいつで私に売ってくれないか。」
と言ったら、
「ああ、キツネの子を殺したって、一文にもならないから売ってやろう。」
ということで、(じいさまは)キツネの子を買って、
そして(帰り道の)途中まで来て、
「おまえ、こんなところに出てくるから、
子供たちに捕まって、ひどいめにあわされるのだから、
これから決してこういうところに出てきてはいけないぞ。」
と、放してやりました。
それから、何日かしていつものように枯れ枝を売って帰ってくるとき、
この前のキツネの子が道ばたにちょこんと座っていて、
「じいさま、この前は命を助けてもらってありがたかった。
家に帰って父さんに話したら、『恩返ししなければならないから、
おまえが行ってじいさまを連れて来い。』と言われたので、一緒に来てください。」
「せっかくだから、それでは行くか。」
と、キツネの子の後について、ある穴の中に入っていったら、
キツネの身内がたくさん集まっていて、お礼を言われた上、
大変なご馳走をされました。
「ばあさまも待っているから、私は、もう帰ります。」
と(じいさまが)言ったら、帰り際にキツネの子の親が言いました。
「何も恩返しするものもないのですが、こんなものでよかったら、
役に立つものだから、持っていってください。」
とだされたものは、ボロボロの頭きんでした。
じいさまはこんなボロ頭きんをもらっても仕方がないと思いましたが、
せっかくもらってくださいとだされたものだから、
ありがたくもらって帰ろうと、頭きんをもらって帰ってきました。
そして何日かたった頃、じいさまが家の前で仕事をしていたら、
急に天気が悪くなって雨が降ってきました。
何も頭にかぶるものがなかったので、
キツネにもらった頭きんをちょいと頭にのせたところ、
近くにとまっていたカラスやスズメやトリが鳴いていることばが、
すっかり耳に入ってきました。
じいさまはこれは不思議なこともあるものだと耳をすまして聞きました。
「ありゃ、ありゃ、あそこの庄屋さまの娘が今日、明日の命だと。
医者よ、坊さまよ、神主さまよといろいろやってみたけれど、
一つも効き目がないそうだ。」
「そんなこと、効き目があるはずない。
あれは病気の元を治さなければ治らない。」
「それは、どういうことなのか。」
「あれはな、庄屋さまお金があるのにまかせて、
奥の方に新しく土蔵を造り始めたそうだ。
ところが、大きなエノキの木が邪魔だからと言って、
切るにも切れないで、根のどこか少し削ったくらいで、
その木の上に土蔵を建て始めたそうだ。
古いエノキはその重さに苦しくなってしまって、
その苦しみが娘のところにいって、娘が苦しんでいるのだ。
ありゃ、土蔵を別なところに建てるか、
木の根をよけて建てなければならない。
そしたら、娘の病気なんてすぐに治ってしまうのだが。
人間なんてばかなものだな。」
と、鳥たちが話していました。
じいさまはこれはよいことを聞いたと、庄屋さまのところへ行って、
「かわいがってる娘、病気なそうだが、まだよくならないか。」
と言ったら、
「どんなに医者に診てもらっても、まじないをやっても、
拝んでもらっても治らない。
なんとかうまい方法はないものかと、心配していたところだ。」
「私の言うことを聞いてくれれば、治るかもしれないが、
確かかどうかわからない。
ちょっと耳にはさんだことがあるから。」
「いや、それはぜひ聞かせてください。お礼はいくらでもします。」
「それでは話しましょう。
私が聞いたのは、今造っている土蔵がエノキの根元の上に建てたから、
土蔵の重さでエノキが苦しがって、その苦しみが娘のどこかに移ったそうだ。
あの土蔵さえどければ、娘の病気はすぐ治ってしまう。」
庄屋さまはそれを聞いて、娘がかわいいので、
それでは、土蔵を建てるのを止めて、建て始めたのを取り壊して、
すっかり片付けてしまうと、娘の病気がうそのように治ってしまいました。
庄屋さまは喜んで、じいさま、ばあさまに一生生活できるくらいのお礼をあげたそうです。
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