むかし、むかし、あるところに、じいさまとばあさまが住んでいました。
一匹のトラネコを飼っていて、自分の食べ物を半分に減らしてでも、
ネコに食べさせて子供のようにかわいがっていました。
ネコはとてもなついていて、
じいさまとばあさまの言うことを聞いていましたが、
だんだんじいさまとばあさまは年をとってしまい、
自分たちが食べるだけの仕事もできなくなってしまいました。
それで、ネコもかわいいが、このままではとても食べていけないからと、
あるとき、
「おまえのことを飼っていけなくなったから、
どこかの情け深い飼い主をみつけて、生きていってくれ。」
と言ったら、ネコは悲しそうな顔をして、しょぼ、しょぼと出て行きました。
それから何日か過ぎて、ある晩、寝ていたら起こすものがいました。
よく見たらトラネコでした。
「長いことお世話になって、なんの恩返しもできないが、
近いうちに庄屋さまがとてもかわいがっていた娘が死んで、
お葬式になる。
その途中で急に風が吹いてきて、
仏さまが入っている棺が空に上がってしまう。
どんな偉い山伏さまが祈とうしても、決して落ちてこない。
どうしたらいいかと、庄屋さんが慌てるから、そのとき、
じいさまが行って、
『なむからたんのー、とらやーのやー。』と、
空に向かって三度拝んでください。
そしたら、棺を降ろしてやります。
それでお葬式は無事にできて、
一生食べていけるほどのお礼を貰えるだろうから。
忘れないでそうやってください。」
と言って、どこかに行ってしまいました。
何日かすると、案の定庄屋さまの娘が死んでしまいました。
いよいよ今日はお葬式です。
行列をつくって(棺を運んで)行ったところが、
急に生臭い風が吹いてきて、
仏さまの入った棺が、みるみるうちに空に舞い上がってしまいました。
庄屋さまの家の人たちや、行列に参加してくれた人たちは、
驚いてしまいました。
「これでは困った。どこそこの寺の坊さまに拝んでもらえ。」
「いや、山伏さまを呼んで祈とうしてもらおう。」
と、拝んでもらったり、祈とうしてもらっても、
どうしても落ちてきませんでした。
そのとき、一緒に行列に参加していたじいさまが、
「私が拝んでみると、落ちてくるかもしれない。」
と言ったら、
「それなら、じいさま、やってみてください。」
ということになって、じいさまは少し格好つけて、
トラネコに教えられたとおり、やってみました。
空に向かって、
「なむからたんのー、とらやーのやー。」
と、坊さまのようなふし付けて、三度拝むと、棺が静かに落ちてきて、
ちゃんと元の棺台におさまりました。
そして、無事お葬式も終わって、庄屋さまは、
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったが、
じいさまのおかげで娘も成仏できた。
何かお礼がしたいが、望みがあったら話してください。」
「いや、別に望みもないが、これからは年をとって仕事もあまりできない、
庄屋さまの庭を掃除にでもきたいので、使ってください。」
と言ったら、庄屋さまはとても嬉しくなってしまい、
「じいさま、ばあさまのことは、
(私が)丈夫なかぎり食べていけるようにするから、
心配しないでください。」
と言われて、それで、じいさまばあさまは、一生楽して過ごしました。
ネコはそれっきり姿を見せませんでした。
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