むかし話を聞かせてあげましょう。
今と違ってむかしは乗り物など無かったから、
殿様のような人はかごに乗って行きましたが、
たいがいの人は江戸見物に行くといっても、歩くほかありませんでした。
あるとこのじいさまとおへこばあさま(※)が、
江戸見物を楽しみに一生懸命仕事をしてお金をためて、
いよいよ江戸見物をすることになりました。
「さあ、ばあさんや。仕度をしろよ。おらのふんどしをどこにおいた。」
「なに、ふんどし、あんまり汚くしておくから、それじゃいけないと思って、
コチリ、ムチリコ、コチリ、ムチリコと洗って、
大神宮さまに供え申しておきました。」
「このくさればばあ。
大神宮さまに供え申したら、死に罰があたってしまうだろ。
おらの草履はどこにおいた。」
「草履だって、あんまりごじゃ、ごじゃ汚しておくから、
いや、いや、これはいけないと思って、これもモチリ、モチリと洗って、
はしごにきつく縛っておき申した。」
「早く持ってこい。」
それで、やっと出かけました。
「ばあさん、ばあさん、早く行こう。」
「じいさん、待ってください。
縞の財布が落っこちていたから、見つけて懐に入れたら、
モチリ、モチリとへそがかゆいので、どうしようもない。見てください。」
「どれ、どれ、縞の財布が、そんなにへそをかくはずがない。」
と見ると、財布ではなくヒキガエルでした。
「こんなもの一緒に連れて行かないで、捨ててしまいなさい。」
「いや、いや、せっかく見つけたのに、もったいないな。バイ。」
と捨てました。
「さあ、早く行かないと日が暮れてしまうから、急いでいきましょう。」
「じいさん、じいさん、まんじゅうが落ちていた。」
「どれ、見せてみなさい。なんだ、これ、まんじゅうではなく馬ぐそだ。
きたない。捨ててしまいなさい。」
「あんまりほかほかしているから、まんじゅうだと思った。
もったいないな。バイ。」
と、また捨てました。
こうしてやっと江戸に着いて夕方になったら、ドカーンと花火が上がりました。
「じいさん、じいさん、なんだろう。忘れ物して、あれ、戻ってくるよ。」
「ばあさん、ばあさん、なにを言ってる。
あれは戻ってくるのじゃなく、残月と言うものだ。」
と言いました。
※おへこばあさま=せっかちなばあさま
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