むかし、あるぜえの嫁としゅうとおっかあが芝居見物さ行ったど。
ほの日の出し物は「菅原伝授手習鑑」で、
「寺小屋の段」のとこでは、道真の世継ぎ菅秀才のために、
わが子を犠牲にする松王を見て、嫁は泣いたんだと。
しゅうとおっかあはぜえさけえってきて、
「あだ芝居見で泣いで、げぇ-ぶん悪くてしゃねがった。」
って、ぜえの人さ語って聞かせたど。
すっと、しゅうとおとっつぁまが嫁さわけ聞いで、
「おめえこそなんにも分がんねで、なに語る。」
って、おっかあ、ごしゃがっちゃど。
ほれからしばらくして、また、二人して芝居見物さ行ったど。
「義経千本桜」だったか見て、
馬鹿なしゅうとおっかは義太夫のちょぼ(※)で
「さるほどに九郎判官義経は・・・・・・」
って、語るのを聞いで、猿がほどにへえって死ぬどこだ。
かわいそうだど泣いたどさ。
※ちょぼ=歌舞伎で地の文を義太夫節で語ること
川俣 佐藤 庄吉
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