みどりの中に光る絹の町川俣

サルのむこ入り(サルと娘の話)

印刷用ページを表示する掲載日:2012年7月1日更新

むかし、むかし、あっとこに、
じいさまがあっで娘三人あったんだと。
だんだん年とって、畑仕事も思うようにでぎなくて、
なじょーもなんなくなっちゃったんだと。
ほんでサルが遊んでだもんだから、何の気なしに、
「この仕事やってくれっこったら、娘の一人をくれてやっから、
やってくんにがい。」
って言ったら、
「ほだら、おれやってくれっペ。」
って、すっかりやってくつちゃど。

じいさまはぜえさけえってから、うっかりそんな約束しちまったどって、
飯も食わねで青くなって寝込んじまったど。
ずない娘が心ぺえして、
「おどっつぁん、なに、心配してんだ。」
って言うんで、
「実はな、これこれ、こういうわけでサルど約束しちまったんだ。
おめえ、サルの嫁っ子さなってくんねが。」
って言ったら、
「とんでもねえ。サルの嫁っこさなんが嫌だ。」
って言わっちゃど。
中の娘にもことわらっちゃど。
末の娘に聞いてみっど、娘は、
「おどっつぁんがうそつぐようになっては困っぺからおら行ぐから。」
って引き受けてくっちゃど。

春の頃なんだべ。
サルと娘の夫婦は、里げえりすっことになって、
「おどっつぁん、何好きだべ。」
「餅好きだから、ついで持って行ぐべ。」
ってなってな、二人で餅ついだと。
「さあ、何さいっちいくべ。重箱さいっちいくべ。」
「重箱はうるし臭ぐてくわねから、だめだ。」
「ほんじゃ、どんぶりさいっちくか。」
「あれは土で作らっちで、土臭いってくわねぞ。」
「ほんだら、何さいっちいくべ。」
って考えだが、ほれ、ほがの入れ物もねえもんだから、
「ほんじゃ、うすでついだまんましょっていくべ。」
って出かけだと。

山から降りてくる途中、沢ぷちさ桜がうつくしく咲いてだと。
娘は、
「あの桜の花持ってったら、おどっつぁんなんぼか喜ぶべ。」
って言ったら、サルが、
「ほんじゃ、みやげに持ってくべ。」
って、うすおろすべとしたら、
「土の上さおぐど、おどっつぁん土臭えってくわねがら、
しょったまんま登った方がぜえ。」
サルは、うすをしょつたまんま登ったど。
「このへんでどうだ。」
って言ったら、
「もっと上だ。」
「このへんでどうだ。」
「もっと上。」
って、サルはとうとう桜のしんぽいまで登っちまったど。
「このへんでどうだ。」
「それがぜえ。」

サルがそれを折ったとたんに、
うすが重ぐて下の沢さどんぶりことおっこちて死んじまったど。
娘はそれを見てて、
「サルは沢さおぢても、サルの命は惜くねえ。」
って言って、おどっつぁんのいるぜえさけえっていったど。

川俣 佐藤 庄吉


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