むかし、あるところに、ばあさまと男の孫が楽しく暮らしておりました。
ばあさまは毎日、ピーユー、ピーユーと音をさせながら糸を紡ぎ、
それを売ったり紬に織ったりして、孫の衣装を縫って着せたりしていました。
孫はよそに働きに行っていて、たまにお土産とお金を持って帰ってきていました。
ある時、村に恐ろしい山ネコの化け物が出てきて、
女の人や子供が食い殺されて大変な騒ぎになりました。
村の力自慢の若い者が退治に行っても、
みんな大けがをして命からがら帰ってきました。
そんなときに、孫がばあさまの喜ぶ顔を見るのを楽しみに帰ってきました。
ところがある晩、ばあさまが糸を紡いでいるところに、
後から化ネコに飛びかかられて食い殺されてしまいました。
孫はとても悲しんでどうしてでも仇をとってやろうと誓いました。
それでも、化ネコは神通力を持っていて手が出ませんでした。
それで、孫は働いているところのだんな様に話をしたら、
化け物退治は鉄砲しかないと、
近くにいる鉄砲撃ちに弟子にしてくれるように頼んでくれました。
孫は一生懸命をみがきました。
そして、
「もう大丈夫だ。早く帰って化ネコを退治しろ。」
と言われて、鉄砲一丁と玉十発、銭別に貰い勇んで村に帰ってきました。
そして、何日か化ネコが出るのを待っていると、
ある晩、遠くの方でポーッと一つ灯りが見えて、
別な方からピーユー、ピーユーとばあさまの糸紡ぎの音が聞こえてきました。
孫は鉄砲をとって音のする方へめがけて一発ぶっ放しました。
それでも、音は止まらないでピーユー、ピーユーと悲しそうに聞こえてくるので、
続けて二発、三発と撃ちましたが(音は)止まりませんでした。
次の晩も、次の晩も同じでした。
今晩こそはと思って、玉袋を見たら一発しか残っていませんでした。
失敗したらとばあさまの仇をとらないぞと、
かたい覚悟を決めて出かけていきました。
真夜中になると、また、いつもの通りポーッと一つの灯りと、
ピーユー、ピーユーと糸紡ぎの音が近くに聞こえてきました。
孫は心の中で、
「おばあさん、今度失敗したら私も化ネコに食い殺されてしまう。
おばあさんのところに行くのはいいけど、仇をとらずには行けない。」
と言って、ばあさまが毎日唱えていたお経を口にすると、
前の方がぼんやりと明るくなってばあさまが出てきて、
遠い灯りの方を指差しました。
孫がそれを見て、
「おばあさん。」
と、呼ぶとスーッと消えていってしまいました。
これはばあさまが化ネコの居場所を教えてくれたのだ。
今まで音の方ばかり狙って撃っていたのは、
化けネコにばかされていたのだと気づき、灯りに向けて、
ドーンと鉄砲を撃ったら、天地がくずれるような音がしてシーンとなりました。
夜が明けてすぐ、村の人が集まって灯りのあった方に行ってみると、
イヌぐらいの大きなぶちネコが目玉を撃ち抜かれて死んでいました。
ネコの首には、ばあさまの紡いだ糸がからまっていて、
それを見て孫は男泣きして悲しみました。
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