むかし、むかしあったど。
まずしいぜえがな。
ぜえさとんばりして火たぎながら、
わらしらは寝でみんなで話しったんだど。
「おどつぁん、おどつぁん、世の中で一番おっかねものはなんだべ。
オオカミはおっかねぐねえが?」
って聞いだら、
「なに、オオカミなんておっかねごどあっか。
古屋のむり(※1)ど米びつの下だし(※2)たのが一番おっがね。」
って言ったんだと。
ほしたらほんどき、馬小屋さオオカミがやってきてたんだと。
ガサガサって音がしたもんだがら、
おどつぁんは馬盗まっちゃてえへんだと、
まっ暗がりの馬小屋さ行って、黒いもんさ飛び乗ったんだと。
オオカミの方がおったまげて、古屋のむりど米びつの下だしたのにとっつかれだ。
これはてえへんだど思って、一目散に山さかけ登ってたど。
おどつぁんはオオカミの耳さつがまっで
「えい、えい、えい、えい。」
って行ったらば、そのうぢに夜がだんだん白げちまって、
ひょいど乗ってだの見だら、口が耳までさげでるオオカミだったど。
おどつぁんはおったまげちゃって、青ぐなって、さあ、てえへんだ。
これじゃ食われっちまう。
どしたらえがんべど思って、本気になって考えでだら、ずねえごろがめっかった。
いや、これはど思ってひらりど飛び落ぢで、ごろん中さかくっちゃど。
オオカミはいやいやこれは助かった、助かったど思って、
山奥さけえっで、けものだぢの会議を開いだんだと。
「こういうわげで、おらはてえしたもんにつかまっちまった。
すんでのとこで命なぐなっとごだった。
みんなで退治しねぇど、あとまたどんなになっか知んねがら、誰が行ってこ。」
って言っても、誰も行ぐもんなかったど。
ほんで、くじ引いたらサルに当だっちまったんだと。
サルは青ぐなってブルブルふるえて、
「おら、とてもだめだ。」
って言ったど。
ほだげんちょも、
「くじに当だったんだがらだめだ。」
って、みんなでごろのめえさ行っで、サルがへえんの見ったんだど。
サルはおっかねくて、おっかねくてししょねんだが、
のぞいで見だらまっ暗らだべし、シリッポいっちごろん中かぎまわしたんだと。
おどつぁんはたまげちまって、何がでできたど思って、ぎゅっとつかんじまったど。
サルがギャンギャン、ギャンギャン言うべし、
おどつぁんは命がけでつかまってペし、まわりのけものだちは、
「ほら、つかまった。」
となって、みんなワラ、ワラ逃げちまったど。
ほうしてとうどうない、サルのシリッポは半分ぬけちまって、
ほれがら、サルのシリッポは短くなっちまって、顔が赤ぐなったんだど。
※1 古屋のむり=古屋の雨もり
※2 米びつの下だし=米びつの底が見える
※右話者以外の話者
西福沢 菅野よしえ(部分)
川俣 黒江 キク
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