むかし、ある村に気立ての良い娘がいました。
一つ人に言われない癖があったので、
縁談に恵まれなかったところが、隣村から(縁談の)話があって、
うまくまとまって嫁入りしました。
結婚式も終わって何日か過ぎた頃、
(嫁が)何か心配でもあるのか具合の悪そうな顔をしていたので、
姑と婿が聞いたところ、
「わたしには、病気とも思われる大きな“へ”をする癖があるんです。」
「“へ”ぐらいのことで心配していることないから、おもいっきりしなさい。」
「それで良かったらしますが、危ないからおっかさんも、
おまえさんも庭の臼につかまってください。」
と言うので、つかまっていたら、
(嫁は)しりをまくってボーンと(“へ”を)しました。
そしたら、婿は天井のはりの上に吹き飛ばされて、
おっかさんは臼ごとけたの上まで吹き飛ばされてしまいました。
「これでは命まで取られてしまうから、こんな嫁は家にはおけない。
おまえが実家に送っていけ。」
と言われて、婿は仕方なく(嫁を実家に帰しに)送って行きました。
途中まで来たとき、馬に反物をつけて商売に来ていた人たちが、
のどが渇いて道ばたの梨の木を見つけて取ろうとしましたが、
とどかなくて困っていました。
嫁はそれを見ていて、
「なんだ。こんなこと、この梨だったら、私の“へ”で落として見せる。」
「人をばかにするな。“へ“したぐらいで、この梨が落ちるはずがあるか。
落としたら馬ごとこの反物を全部くれてやる。」
「よし、それなら見てなさい。
危ないから、あなたたち梨の木から離れていなさい。」
と、しりをまくってボーンとしたところ、
梨も木の葉も落ちて裸の木になってしまいました。
それで約束だから、馬や反物をそっくり貰ってしまいました。
それを見て婿は、こういう宝(財産持ちの)嫁は(実家には)返せないと思い、
「いっしょに戻ろう。」
と、連れて帰って、おっかさんに、
「これ、これ、こういうわけだ。」
と話したら、
「そんな宝嫁ならば長くいてください。
しかし、あのような“へ”をされて、
いつも屋根の上になんて吹き飛ばされては困るから、
奥の方に一間(ひとま)造ってやるから、そこに行って思う存分しなさい。」
と言いました。
それが“へ”屋(部屋)の始まりだそうです。
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