むかし、あっとこに、二人のじいさまが隣あっで住んでだと。
どっちも貧乏で、その日暮らししてだと。
一人のじいさまは人がぜえうえに正直で、神も仏も深く信心してだと。
ある晩、夢に仏さまがでできて、
「おめえはいつも心がけがぜえうえ、信心ぶげえがら、
三つの願いごとをかなえでやる。
明日お寺さ行って、ご本尊さまのめえで願ってみろ。」
って言って、消えていっちまったど。
じいさまは嬉しぐなって、次の日、お寺さ行ってご本尊さまのめえで、
「三つも願いごといんねがら、一つだけでぜえからおねげえします。
困ってる人や旅の人泊めだどき、
不自由しねで面倒みられるようにしてくんつぇ。」
って、ぜえ(家)さけえってみっと、
ぜえは立派になってし、布団もかさなってし、
米びつに米はいっペえへえってし、なんもかもそろってで、
じいさまはおったまげたど。
じいさまはさっそく、隣、近所の困ってる人さ分けでやったど。
ほして、家さけえってみっと、米も布団もなんもかも少しも減ってねで、
元どおりになってたど。
隣のじいさまはおがしねえなど思って、
「このぜえでは、なじょなわけでごいら物持ちになったんだべや。」
って聞きさきたど。
人のぜえじいさまは、かくしておげねで、
「これ、これ、こういうわけだ。」
って聞かせだと。
ほしたら欲ふけえじいさまは、氏神さまがら、仏だんがら掃除して、
にわか信心ば始めたど。
何日かして夢に仏さまがでできて、
「三つの願いを授けてやっつぉ。
三日目の夜、九つ時分(※)までに願え。
それをすぎっと、願いはかなえらんにぞ。」
って言って、消えていっちまったど。
欲ふけえじいさまは嬉しぐなって、
夜明けを待ってはやばやとお寺さ行って、
「ご本尊さま、腹へったがら、うめえ物たんと出してくんつぇ。」
って願って、けえってみっと、てえしたごちそうがたんと出でだと。
じいさまは喜んじゃって、腹いっぱいよっぱら食って、
次の日は立派なぜえを願って、でんと出してもらったど。
三日目は、欲ぶけえがら何出してもらうべと、
あれこれ考えでるうぢに刻げんはくっし、そんじも決まんなくて、
とうとう刻げんが切れそうになっちまったど。
欲ぶけえじいさまあわてちまっで、一生食うに困らねえようにど、
「米倉、千出ろ。米倉、千出ろ。」
って願ったど。
ほしたらご本尊さまは、「子めくら、千出ろ。」ととっちがえちまって、
めくらの子を千出しちまったど。
指の間がら、脇の下がらなにがら、千も出られちゃって、
欲ぶけえじいさまは、はあ、あわくっちまって、
なじょしたらぜえがわがんなくて、悲めいをあげだという話だ。
※九つ時分=十二時
川俣 佐藤 庄吉
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