みどりの中に光る絹の町川俣

米倉、子めくら

印刷用ページを表示する掲載日:2012年7月1日更新

むかし、あっとこに、二人のじいさまが隣あっで住んでだと。
どっちも貧乏で、その日暮らししてだと。
一人のじいさまは人がぜえうえに正直で、神も仏も深く信心してだと。
ある晩、夢に仏さまがでできて、
「おめえはいつも心がけがぜえうえ、信心ぶげえがら、
三つの願いごとをかなえでやる。
明日お寺さ行って、ご本尊さまのめえで願ってみろ。」
って言って、消えていっちまったど。

じいさまは嬉しぐなって、次の日、お寺さ行ってご本尊さまのめえで、
「三つも願いごといんねがら、一つだけでぜえからおねげえします。
困ってる人や旅の人泊めだどき、
不自由しねで面倒みられるようにしてくんつぇ。」
って、ぜえ(家)さけえってみっと、
ぜえは立派になってし、布団もかさなってし、
米びつに米はいっペえへえってし、なんもかもそろってで、
じいさまはおったまげたど。
じいさまはさっそく、隣、近所の困ってる人さ分けでやったど。
ほして、家さけえってみっと、米も布団もなんもかも少しも減ってねで、
元どおりになってたど。

隣のじいさまはおがしねえなど思って、
「このぜえでは、なじょなわけでごいら物持ちになったんだべや。」
って聞きさきたど。
人のぜえじいさまは、かくしておげねで、
「これ、これ、こういうわけだ。」
って聞かせだと。
ほしたら欲ふけえじいさまは、氏神さまがら、仏だんがら掃除して、
にわか信心ば始めたど。
何日かして夢に仏さまがでできて、
「三つの願いを授けてやっつぉ。
三日目の夜、九つ時分(※)までに願え。
それをすぎっと、願いはかなえらんにぞ。」
って言って、消えていっちまったど。
欲ふけえじいさまは嬉しぐなって、
夜明けを待ってはやばやとお寺さ行って、
「ご本尊さま、腹へったがら、うめえ物たんと出してくんつぇ。」
って願って、けえってみっと、てえしたごちそうがたんと出でだと。
じいさまは喜んじゃって、腹いっぱいよっぱら食って、
次の日は立派なぜえを願って、でんと出してもらったど。
三日目は、欲ぶけえがら何出してもらうべと、
あれこれ考えでるうぢに刻げんはくっし、そんじも決まんなくて、
とうとう刻げんが切れそうになっちまったど。
欲ぶけえじいさまあわてちまっで、一生食うに困らねえようにど、
「米倉、千出ろ。米倉、千出ろ。」
って願ったど。
ほしたらご本尊さまは、「子めくら、千出ろ。」ととっちがえちまって、
めくらの子を千出しちまったど。
指の間がら、脇の下がらなにがら、千も出られちゃって、
欲ぶけえじいさまは、はあ、あわくっちまって、
なじょしたらぜえがわがんなくて、悲めいをあげだという話だ。

※九つ時分=十二時

川俣 佐藤 庄吉


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