むかし、あるところに、兄弟がいました。
兄の方は、
「扇拍子(びょうし)をちょっと打って、ちょうぎちょうぎ長六に、
長太郎びくに長びくに、あの山のこの山の、ああ申すこう申す、
はっきりど縁切りもくあみに、てんもくもくのもくぞう坊、
伊賀の平左衛門加賀の源蔵次、源七源八源年六、
とっペない五郎、うりのおん坊とうがん坊、豆腐のおん坊食いしん坊、
刀の鐺(とう、刀のこじり)の小左衛門、鳥の鶏冠(けいかん)の藤三郎」
と言う長い名まえで、
弟の方は「問うてなんしょ」という短い名まえでした。
お父さんは兄の方があまり可愛くないので、
出世しないようにと面倒くさい名まえをつけ、
弟の方は可愛かったので、短くて呼びやすい名まえをつけました。
そして、二人とも大きくなって、殿さまにお目通りをすることになりました。
殿さまの前で、
「兄の方から名まえを申してみよ。」
と言われて、
「はい、おらはこうこう、こういう者でございます。」
と、長い名まえを申し上げたら、
「ほう、なるほど、長い面白い名まえだな。」
と、お褒めの言葉をいただいて、ご褒美をもらいました。
それから、弟に、
「そちは何と申す。」
「はい、問うてなんしょと申します。」
と言ったら、
「問うてなんしょ。聞いてくださいとは何事だ。無礼者さがれ。」
と、大変叱られましたとさ。
[表示切替]
| | トップに戻る