むかし、ある人が用頼まっち大金持って、
「どこそこまで行ってきてくんちぇ-。」って言わっちゃど。
途中で追いはぎに会ったらてえへんだ。
無事に用たしてけえってくんには、
坊さまの支度して行ぐにかぎるど思って、
にわか坊主に化げで出がげたんだと。
ほして、あっとこまで来たら暗ぐなっちまって、
泊まっとこはねえし、どうすっペと思ってだら、
あかしがもれでるぜえがあったんで、そごさ行ったど。
「暗ぐなったがら、一晩泊めでくんちぇ。」
って言ったら、じいさまとばあさまがいで、
「ああ、ちょうどぜえどこさ坊さま来てくっちゃ。
じつは娘が死んで、ざらんぼすましたばかしだ。
功徳にひとづお経あげてくんつぁんしよ。」
って言うんで、今さら坊さまでねえって言わんねがら承知したど。
じいさまとばあさまは、ちゃんと仏壇のめえさ坊さまの席もうけで、
「坊さま、ひとづ供養お願えします。」
って言わっちゃが、にせ坊主だからお経のおの字も知んねえ。
なんて拝んだらぜえかわがんねえ。
始めはカーン、カーンって鳴らしながら、むにゃむにゃってやってだが、
じき脇さじいさまとばあさまがいっから、何か文句唱えねがなんねえ。
ほしたどころが、仏壇のうしろの穴がらネズミがチョロ、チョロ出できたんだと。
これはぜえど思って、
「おんチョロ、チョロど穴のぞき-、カーン。」
ってやったど。
ほしたらネズミがひっこんで、また出できたど。
「また、チョロ、チョロど穴のぞく-、カーン。」
ってやったど。
ほしたら今度は、ネズミが二匹出できて、チュー、チューと鳴いだんで、
「何やら相談しており候。カーン。」
とやったど。
ネズミはキョロ、キョロようす見でだが、ひっこんじゃったんで、
「どこかさ逃げ行き候。カーン。」
ってやったど。
じいさまとばあさまは、坊さまがけえってがらも、
そのお経をありがたがって、毎晩、娘の供養に唱えでだと。
ある晩、二人の泥棒が娘死んだがんで、
おくやみたんとあるにちげえねえどにらんでな、
忍びこんで障子の穴っこがらそっとのぞいで見てたど。
ほしたどころが、じいさまとばあさまが、
「おんチョロ、チョロど穴のぞき-、カーン。」
ってやったんで、たまげちゃったど。
これはさとらっちゃど思って、さっと引っこんで、またのぞいだら、
「また、チョロ、チョロど穴のぞく-、カーン。」
ってやったんで、泥棒はおったまげちゃって、
「おい、あい棒、たまげだじいさまとばあさまだ。
おらのぞいだの知ってっつぉ。じっとしてようすみんべ。」
ってこそこそ言っだら、
「何やら相談始め候。カーン。」
ってやったど。
泥棒がたまげちゃって逃げ出したら
「どこかへ逃げ行き候。カーン。」
ってやったんで、きもつぶして逃げでったど。
川俣 佐藤 庄吉
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