むかし、あるところに、五郎という男の子がいました。
その五郎が、
「おばさんの家に柿をあげてきて。」
と(家の人に)言われて、
柿を背負わされて(おばさんの家に)向かって行きました。
すると道に迷ってしまい、
一人のばあさまが井戸端で米をといでいるところに出会いました。
すると、ばあさまが、
「おまえ、どこへ行くのか。」
と言いました。
「おばさんの家に柿を持っていく途中です。」
と言ったら、
「わたしが、おまえのおばさんだ。」
と、言われたので、(五郎は、)
「違う。ぼくのおばさんは、額にほくろがあります。」
と言いました。
そしたら、
「わたし、今日は豆うちだったから、ごみがついて見えないのです。
今ここで顔を洗うから。」
と、井戸端でジャブ、ジャブ(顔を)洗って、
そして額に、ほくろをつけてしまいました。
そして、
「ほら、おまえのおばさんだぞ。」
と言われて、ついて行ってしまいました。
一晩泊まっていく時に夜中に、
ブリッコ、ブリッコと何かを食べている音がしました。
これは大変だと思って、
「おばさん、何を食べているの。」
と聞きました。
すると、
「おまえにもらった柿を食べているんだ。」
と、ブリッコ、ブリッコと食べていました。
大変なことがおきたと思って五郎が、
「小便、小便。」
と言いました。
すると、
「小便は庭の隅にでもしなさい。」
と言って、まだブリッコ、ブリッコと食べていました。
「庭の隅にしたらば罰があたるから、早く、早く、小便でそう。」
と言ったら、帯に鎖をつけられました。
そして、
「小便所に行って来い。」
と言われました。
五郎は神さまにお願いしました。
「何だか気味が悪いから、どうかこの鎖を解いてください。」
と、一所懸命に神さまにお願いしたら、神さまが(鎖を)解いてくれ、
鎖を柱に結いつけてくれました。
そして(五郎は、神さまから)三枚のお札をもらいました。
「もし(ばあさまに)追いかけられたら、
『大いばら山になれー』と言ってお札をまきなさい。
その次は『大火の海になれー』と言ってまきなさい。
その次は『大波になれー』といってまきなさい。」
と、教えられました。
五郎はずっと走って逃げました。
ばあさまは、
「早く来い。早く来い。」
と言って、全力で鎖を引っ張りました。
そしたら、小便所が入り口まできて、ガターンと引っかかっていました。
ばあさまはこれは大変だ。
逃げられたと、臭いをかいで、髪をはねながら追いかけてきました。
五郎はもう少しで食べられそうになった時、神さまにもらったお札を、
「大いばら山になれー。」
といってまいたら、山がいばら山になりました。
ガサ、ガサ、ガサ、ガサと(ばあさまは)山を越えてきました。
そしてまた、つかまりそうになったので、今度は、
「大火の海になれー。」
と、またお札を投げました。
そしたら、火の海になってもばあさまが火をかきわけて、走ってきました。
そしてまた、つかまりそうになりました。
それから今度は、
「大波になれー。」
とお札をまいたら、波がジャプーン、ジャプーンとおしよせて、
そこをばあさまは流されもしないで、やってきました。
五郎は恐ろしいし、どうしたらよいかと思って、
息をつぎつぎチラッと見たら、高いところにお寺がありました。
そのお寺に走っていくと、
和尚さんムニャ、ムニャと一所懸命お経を読んでいました。
「ばあさまに食べられるから、こういうわけだから、早く助けてください。」
と頼んでみると、
「今、一服お茶を飲んで。」
なんて、のん気なことを言いました。
五郎は慌てていました。
「早く。和尚さん、早く。早く。」
そしたら、お寺の大きな囲炉裏の上に、
むかしは芋などが凍みないように、干しておくところがあって、
そこのところにはしごを掛けて、かくしてもらいました。
そこのところに、ばあさまが波をこえて(水浸しの)ダラ、ダラになってきました。
「寒い。寒い。火にあたらせてください。家の息子がこなかったかい。」
などと言って、そして、ブリブリ、ブリブリと木を折って火をたきました。
そしたら上で、
「熱い、熱い、熱い。」
と言いました。
「あっ、いた。」
と、ばあさまは、はしごがかかっていたので、
半分くらいまで登っていきました。
すると、和尚さん一所懸命お経を読んで拝んだので、
はしごが折れて、ばあさまは下にベタッと落ちてしまいました。
そして、その死んだばあさまよく見ると、大きな古だぬきだったということです。
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