むかし、むかし、あるところに、
おじいさんが住んでいて娘が三人いました。
だんだん(おじいさんは)年をとって、
畑仕事も思うようにできなくて、どうしようもなくなってしまいました。
それでサルが遊んでいたので、何の気なしに、
「この仕事やってくれるのなら、娘の一人をくれてやるから、
やってもらえないかい。」
と言ったら、
「それなら、おれがやってやりましょう。」
と、全部(畑仕事を)やってくれました。
じいさまは家に帰ってから、うっかりとそんな約束をしてしまったと、
ご飯も食べずに青くなって寝込んでしまいました。
一番上の娘が心配して、
「おとっつあん、なにを心配しているの。」
と言うので、
「実は、これこれ、こういうわけでサルと約束してしまった。
おまえ、サルの嫁になってくれないか。」
と言ったら、
「とんでもない。サルの嫁になるなんて嫌だ。」
と言われました。
二番目の娘にも断られました。
末の娘に聞いてみると、娘は、
「おとっつあんが、うそつくことになっては困るだろうから、私が行くから。」
と引き受けてくれました。
春の頃でしょう。
サルと娘の夫婦は、里帰りすることになって、
(サル)「おとっつあん、何が好きなんだろう。」
(娘)「餅が好きだから、ついて持って行きましょう。」
と言うことで、二人で餅をつきました。
(サル)「さぁ、何に入れていくか。重箱に入れていこう。」
(娘)「重箱は、うるし臭くて食べてくれないから、だめね。」
(サル)「それじゃ、どんぶりにいれていくか。」
(娘)「あれは土で作られているから、土臭いと言って食べてくれない。」
(サル)「それなら、何に入れていこう。」
と考えたが、でも、ほかの入れ物もないので、
「それじゃ、うすでついたまま背負っていこう。」
と出かけました。
山から降りてくる途中、沢の淵に桜が美しく咲いていました。
娘は、
「あの桜の花を持っていったら、おとっつあんどんなに喜ぶだろう。」
と言ったら、サルが、
「それじゃ、土産に持っていこう。」
と、うすを下ろそうとしたら、
「土の上におくと、おとっつあんは土臭いと食べないから、
背負ったまま登った方がいい。」
サルは、うすを背負ったまま登りました。
「このへんでどうだ。」
と(サルが)言ったら、
「もっと上の。」
「このへんでどうだ。」
「もっと上。」
と、サルはとうとう桜の梢まで登ってしまいました。
「このへんでどうだ。」
「それでいい。」
サルがそれを折ったとたんに、
うすが重くて下の沢にどんぶりこと落ちて死んでしまいました。
娘はそれを見ていて、
「サルは沢に落ちても、サルの命は惜しくない。」
と言って、おとっつあんのいる家に帰っていきました。
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