むかし、むかし、ある村の名主さまの家で、
不幸が続いて死に絶えてしまいました。
そして、空家になったその家に魔物が住みついて、
村の人を食い殺したりして、みんな困ってしまいました。
村の元気の良い若い者たちが、
われこそは退治してやりましょうと乗りこんでいっても、
次の日の朝(村の人が空家へ)行ってみると、
のど笛を食いちぎられて、死がいになっていました。
村の人たちは恐がって空家の前をなるべく通らないよう、
遠回りして通ったり、夕方には早めに山から帰るようになっていきました。
そんなことが長く続いたので、(新しい)名主さまはとても心配して、
どうにかして退治しなくては村がつぶれてしまう、
魔物の正体が何だか探ってやろうと、
ある晩、勇気を出して空家に忍び込んで、魔物が出るまで待っていました。
そうして、夜中になったら急ににぎやかになったので、
何が起きたのかと聞き耳を立てたら、その言葉の中から
「丹波の国の太郎左衛門の、
めざき、おざきに知らせるな。
ドッカダ、ドンドン、キッタカ、ドンドン。」
と、何者かが歌って踊っているのが闇の中からわかりました。
名主さまは、そのはやし言葉を覚えてきて、
これは丹波の国の太郎左衛門と言う人のところに行けば、
何か分かるのではないかと思い、
さっそく旅支度をして探しに出かけました。
何日かかったのでしょう。
やっと太郎左衛門の家を探しあてたところ、その家も名主さまでした。
「実はこれこれ、こういうわけでたずねてきましたが、
魔物が知らせるなと、恐がっているめざき、おざきとは何のことでしょう。」
と聞いたら、
「めざき、おざきと言うのは、ネコのことです。
三毛ネコのひとつがいのことです。」
「何とかそれを貸していただけないでしょうか。」
「とても利口なネコで、家族と同じに育ててきたので、
そんな危ないことが分かっていて、貸すわけにはいかない。」
「私の村の危機を救うと思って、何とかまげてお願いします。」
と言ったら、太郎左衛門を分かってくれて、
「それでは貸してやろう。だが、どんな姿になってもきっと返してくれ。」
と、かたく言われて二匹の三毛ネコを借りてきました。
そしてネコの大好きなものを食べさせて、機会を狙っていました。
そしてある晩、時刻をみはからって、
二匹の三毛ネコをだいて、化け物屋敷に行きました。
「丹波の国の太郎左衛門の、
めざき、おざきに知らせるな。
ドッカダ、ドンドン、キッカダ、ドンドン。」
とはやしながら、魔物が踊りを踊っていました。
「それっ。」
と、ネコを放してやったら、ドタン、バタン、バタン、
「ギャーッ、ギャーッ。」
と、天地がひっくり返るような大騒ぎになりました。
名主さまは闇の中で、三毛ネコのことを心配しながらふるえていたら、
そのうちシーンとなってしまいました。
夜が明けてみると、小さな牛ほどもある古ダヌキが二匹、
のどを食い切られて死んでいました。
そのそばに、めざき、おざきも、血だらけになって死んでいました。
名主さまは村の人たちと泣きながら、
血だらけになったネコを、ていねいにふいてやり、
さっそく旅支度をして、丹波の国に帰しに行きました。
太郎左衛門の家に着いてから、
力のかぎり戦って死んだことを話して聞かせたら、
「それでは、めざき、おざきも満足して死んだだろう。
手あつく葬って長く供養してやろう。」
と言いました。
助かった名主さまの村では、比翼塚(※)をたてて、
長くネコの霊をなぐさめてやりました。
※比翼塚=男女を合伴して建てた塚
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