むかし、わけえ鉄砲ぶちが一人で山さ狩りに出かけていったど。
その日はあいにく獲物さ逃げらっちばかりで、
とうとう日が暮れちまったど。
ほして、疲れちまったんでずないスギの木下で寝っことにしたんだと。
遠ぐから聞えでくるキツネやイヌの鳴き声を聞いでるうちに、
わけえ鉄砲ぶちは昼まの疲れでぐっすり寝こんじまったど。
しばらくたって、バッタン、バッタンってかん高く静かに聞こえでくる機の音で目をさまし、
寝ぼけまなぐをこすりながらまわりを見だと。
すっと、すこし先きのずないマツの木のあたりがぼーっと明るくなってで、
ほごから機の音が聞こえでくるようなんだな。
わけえもんはおかしなごともあるもんだと、
わがんねえようにそっこ、そっこ行っで上を見っと、
美しいおなごの人がずないちょうちんつけて機を織っていたど。
しばらくの間機の音を聞きながら見てたげんじも、
ふと、この頃村さ古ダヌキが出てきて村の人をだますってこと思い出してな、
こいつはきっと古ダヌキの仕業だべと思っで、しとめてやっペとなったど。
ほんだが、たまは一発しか残ってなかったど。
まちげえなく当でるには、ずねえちょうちんねらうにかぎると、
こっそり鉄砲かまえバーンとぶっぱなしたど。
見事にちょうちんに当ったど思っだら、美しいおなごの人はまっ逆さに落ぢできて、
黒いかたまりになって暗やみの中さ消えでいっちまったど。
わけえもんはほっとして、昼間の疲れで恐いのも忘っち、木の下さ眠っちまったど。
まっ赤なお日さまがむけえの山さ上ってくる頃、
わけえもんは目をさましておったまげだと、
マツの木の下さべっとりとたくさんの血が落ぢてたっつうんだな。
ほれをたどって畑を越え山の奥の方さ行って見っど、
大きな岩の下でずない古ダヌキがウーン、ウーンってうなって死にそうになってだと。
ほれがら、村の人はタヌキにだまさんねで、また、静かな村さけえったど。
福田 佐藤 哲美
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