むかし、むかし、
ある人が江戸見物に行きたくて、行きたくて困っていました。
いつかは行ってみたいものだなぁと思っていても、
なかなか(一緒に行く)相手がいなかったので、行きかねていました。
すると、片足でビッコ、ビッコ、ビッコと歩いてくる人がいました。
「どうして片足で歩いているのですか。」
と聞いたら、
「両方の足で歩くのでは早すぎるので、片方の足で歩いて十分です。」
と言いました。
それで、
「私は江戸見物に行きたいと思っているのですが、
相手がいないので、ご一緒にどうですか。」
と聞きました。
すると、
「私も行きたいと思っていたのです、それではぜひ連れて行ってください。」
ということで、二人で江戸に向かう旅に出ました。
すると、今度は片方の目をおさえて、鉄砲を撃っている人がいました。
片方の目で狙っているのではと思って、言葉をかけました。
「どこを狙っているのですか。」
と聞くと、
「三里四方のアブの左の目を狙っています。」
と言いました。
「いや、いや、私はこういうわけで江戸見物に行きたいと思っていますが、
あなたも行きませんか。」
と聞くと、
「私も行きたいと思っていたのですが、なかなか行けずにいたので、
それではぜひ連れて行ってください。」
ということになりました。
三人で旅を進めて行くと、今度は片方の鼻の穴をおさえて、
プープー吹いている人がいました。
そこでまた声をかけてみました。
「どうして片方の鼻でプープー吹いているのですか。」
と聞くと、
「三里向こうの風車を吹いています。」
と言いました。
それで、
「江戸見物に行きたいと思っていたのですが、なかなか相手がいなくて、
こういうわけで行くので、おまえさんも行きませんか。」
と聞いたら、
「私も行きたいと思っていたのですが、相手がいなかったので、
ひとつ世話になりましょう。」
ということで、今度は四人になって進んでいきました。
すると、大きな菅笠を横にかぶって、テッ、テッ、テッと歩いてきた人に会いました。
「なぜ横に笠をかぶっているのですか。」
と聞いたら、
「真っすぐにこの笠をかぶっていると、冷えて凍ってしまうくらいだから、
このくらい横にかぶっても、これでも寒いくらいなんです。」
と言いました。
それで、その人にも江戸見物に誘いました。
そして五人で進んで行って、江戸の近くになった時、
「お姫さまとかけっこをして負かしたなら、ご褒美をたくさんあげる。」
と言う立て札がありました。
それで、両方の足で歩いたのでは、早すぎる人を出しました。
そして、お姫さまとかけっこをしました。
初めは片方の足で、ビッコ、ビッコと走っていましたが、
途中から両方の足を使って走ったのでとても速くて、
お姫さまを負かしてしまいました。
そして向こうに行って一升だるを持って、
引き返して来なければなりませんでした。
ところが一升だるを持ってきて、途中で枕にして一休みしていました。
そしたら、後からお姫さまが走ってきました。
これは大変だ。
追いつかれてしまうと、三里四方のアブの左の目を狙っていた人に、
「見てください。」
と言って、両方の目を使って見たら、
一休みしていて走り出そうとしていませんでした。
負けてしまうので、一升だるの底を狙ってドーンと(鉄砲を)撃つと、
ド、ド、ド、ド、ドと酒が流れ出ました。
片方の足で歩いていた人が、これは大変だと、
またテッ、テッ、テッ、テッ、テッ、テッと走り出すと、
お姫様のことを負かしてしまいました。
そして、勝ってしまうと、その屋敷の侍たちは、
そんな田舎者に、ご褒美をやってはもったいないと、
みんなのことを土蔵の中に閉じ込めてしまいました。
それで、焼き殺してしまえと、蔵の周りに麦わらを集めて、
むし焼きにしようとしました。
そしてボン、ボン燃やして熱くなっていたので、
みんな死んでしまったろうと思い、蔵の戸を開けてみたら、
笠を横にかぶっていた人が、
真っすぐ立っていてみんな笠の中に入っていたので、
五人とも平気な顔をしていました。
そして、どうしてもご褒美をやらなくてはならないので、
それでは背負われるだけ(沢山のご褒美を)、五人にくれてやって、
後から馬で追いかけようと侍たちは考えました。
山ほど(ご褒美が)与えられました。
すると(帰る)途中で、
三里向こうの風車を片方の鼻でプーッと吹いていた人が、
両方の鼻で(追っ手を)サーッと吹いたので、
いや、いや、侍たちは馬もろとも吹っ飛んでしまいました。
そして、(五人は)宝物を沢山もらってきたそうです。
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